打ち上げられた思い出
私にとって海といえば、高校の近くから見える海だ。
私の通っていた高校は人工島の上にある。
タンカーやコンテナ船が割拠する港に囲まれた島から見える海は
青というより暗い深い緑が強く、とても泳げるような場所ではない。
それでも、私はあの海が好きだ。
底の見えない深く暗く冷たい、静かな海。
潜ることのできない、外から眺めるための場所だ。
たまにガソリンのような臭いの漂ってくる
人を拒絶するようなあの海こそが
私の思う海なのだ。
綺麗に繕われたはずの島はだんだんと時代を帯びていき
徐々に沈みつつあるらしい。
かつては映画館やショッピングモールが生きていたけれど、
今はすっかりなくなってしまった。
美しく形作られたあのコンクリートの島は、これからどうなってしまうのだろう。
珊瑚の代わりに割れたガラス瓶の破片が散らばる
コンクリートと煉瓦で舗装された海辺には
いつも思い出だけが打ち上げられている。
私の愛する海はどんなに近くても、いつだって遠い。
珊瑚と花と/Cocco