バスに乗る
夜行バスに乗る時にはいつも思い出す曲がある。
「長距離バスの窓の外にどこまでも君が手を振る」
秋元康の歌詞にはバスがよく出てくる、という話があったが、野猿の時からそうだった。大抵少し寂しくて切ない、別れの曲である。
ただ、窓の外にどこまでも君が手を振る、という状況を真面目に考えたらちょっとホラーだ。
幻覚だとしてもそれに手を振り返しているので、隣の人は相当怖い思いをしたことだろう。
遠距離恋愛をしていた頃には、彼がバスに乗るのを見送りに行くことも度々あった。
乗り込む彼に手は振ったが、どこまでも追いかけるなんてことはできなかった。
そもそも難波のバス乗り場は屋内で、見送りの人がバスを追いかけられるような場所ではない。
今でこそ夜行バスでは「車内での飲酒禁止」「酔っ払いは乗車お断り」といった内容の放送を流しているが、昔はずっといい加減だった。
眠れない車内で無理やり寝るためか、飲酒をするような人も偶にいたのだ。
通路を挟んだ少し前の席で、テディベアを小脇に抱えたロリータファッションの可愛いお姉さんがおもむろにチューハイのロング缶をプシュッとやりだした時には流石に驚いた。
細くて可愛らしいお姉さんがロング缶……夜行バスの車内で。
その時二十歳そこそこの大学生だった私にとってはかなりの衝撃だった。
ついこの間それを思い出したのは、阪神電車の車内でクールなお姉さんがスミノフアイスの瓶にストローを挿して飲んでいたのをみた時だった。
バーコードのところにセブンイレブンのテープが貼られた瓶を持ったモデルみたいに綺麗な女性……その姿は異様にキマっていて、二十代半ばの私にもなんだか衝撃だった。
公共交通機関での飲酒は性別年齢問わず褒められたものではないのに、美人がやっていると不思議とどこか胸がすくような気持ちになってしまう。
真似するつもりもないけど、たとえ真似しても私は酒にそんなに強くないしすぐに赤くなってしまうのできっと全然格好がつかない。
そもそも全く美人じゃないし、ただの迷惑でみっともない酔っ払いにしかならないだろう。
かといって、長距離バスで去っていく男性にどこまでも手を振っていられるような女性にも、きっともうなれないのだ。
今日も一人でバスに乗って、1泊4日の短い旅に出る。
Thank you/野猿
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